異議申立てとは
治療を終了した後も、身体に異常が残る場合があります。
治療終了をしたあとに残った身体の異常のことを後遺障害といいます。
後遺障害が残存した場合、いきなり相手方に対して損害賠償を請求しても相手方は損害賠償に応じません。
また、後遺障害の残存が判明した後で、すぐに訴訟提起をしても、裁判所はその対応に苦慮してしまいます。
後遺障害が残存した場合には、自動車損害保険料率算定機構において後遺障害認定をしてもらい、その等級に沿った損害賠償請求をしていくという流れが現在のスタンダードです。
しかし、損害保険料率算定機構による認定結果は、必ずしも予想どおりのものとは限りません。
予想していた等級よりも低い等級を認定されてしまう可能性もありますし、「非該当」との結論がだされてしまう可能性さえあります。
その場合、予想していた等級よりも低い等級、もしくは非該当の結論に至った場合、加害者側が任意に損害賠償金を支払うことはありません。
認定結果が非該当であった場合に、後遺障害に関する損害賠償金の支払いを求めるために被害者がすべきことは、認定された内容を訂正し、適切な認定をしてもらうように損害保険料率算定機構に申し立てることです。
これを異議申立てといいます。
異議申立てをしても認定内容は変わらなかった
異議の申立てをした場合、損害保険料率算定機構は、被害者が提出した申立書及び資料をもとに、従前の認定結果が適当なものであるのか判断します。
申立人の主張と証拠によって従前の認定結果が不適当だとの判断が出れば、結論が変わります。
けれども、異議申立てによっても従前通りの内容であるケースも多くあります。
それは異議申立ての理由に沿った証拠を提出することが困難な場合が多いからです。
異議申立てに回数制限はありませんから、幾度となく異議申立てはできますが、損害保険料率算定機構が欲する証拠が提出できないにもかかわらず、いたずらに異議申立てを繰り返しても、結果は変わりません。
他の手段を検討しなくてはなりません。
異議申立の結果が非該当だったとしても判決で損害賠償請求が認容されることはある
損害保険料率算定機構による認定結果が非該当であった場合でも、裁判所が後遺障害に関する損害賠償請求を認容することは少なくありません。
それは、損害保険料率算定機構と裁判所とでは、後遺障害と捉える内容が必ずしも一致せず、またその認定方法も異なるからです。
認定内容の違い
損害保険料率算定機構は、対象となる症状が自動車損害賠償保障法施行令別表(以下、「別表」といいます。)に記載された後遺障害に該当するかを判断します。別表に記載された後遺障害に該当しないと判断される場合は、仮に身体的に異常が認められるような場合であっても、結論は「非該当」です。
一方、裁判所は、別表該当性だけではなく、労働能力を喪失させる症状や精神的苦痛を生じさせる症状の残存の有無をも併せて判断します。
別表に記載された後遺障害の残存が認められなくとも、労働能力を喪失させる症状や精神的苦痛を生じさせる症状の残存が認定されれば、これらの症状に対応した損害が賠償請求が認容されます。
認定方法の違い
損害保険料率算定機構による認定方法は基本的に書類審査であり、重視する書類は診断書や診療報酬明細書など医療機関が作成した文書となります。
一方、裁判所による認定方法は、書類審査に限定されませんし、重視する証拠も医療機関が作成した文書だけではありません。
以上より、異議申立ての結果が非該当であったとしても、後遺障害に関する損害賠償をあきらめる必要はありません。
留意点
別表記載の後遺障害と労働能力を喪失させる症状や精神的苦痛を生じさせる症状とは重なり合う部分はかなり多く、また、裁判所が損害保険料率算定機構の結論を重視する傾向は認められます。
よって、異議申立による認定結果が非該当であった場合、後遺障害の立証の仕方を十分に検討する必要があります。
また、労働能力を喪失させる症状や精神的苦痛を生じさせる症状が認定された場合であっても、損害保険料率算定機構が等級認定した場合に比べて、認定される損害額が低くなりがちです。
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