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訴訟を提起しても必ず慰謝料額が上がるわけではない

裁判をすると必ず慰謝料額が増額するとの考えは危険である

 「弁護士に頼めば必ず慰謝料額が増額します」「弁護士に頼めば保険会社の提示額の〜倍の金額になります。」といった宣伝を最近よく目にします。
 このような宣伝文句を見る度に「危ないな」と思っています。

 

 確かに、保険会社が提示する慰謝料額は、一般的に自賠責保険基準で算定されたものであったり、保険会社独自の基準で算定されたものであることが多いです。

 

 保険会社が提示する金額は、「民事交通訴訟・損害賠償額算定基準」(公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部編、通称「赤い本」)にて算定される金額よりも低いものであることが一般的です。

 

 弁護士が保険会社に依頼すれば、弁護士は赤い本の基準にて算定した金額を保険会社に請求します。
 弁護士が代理人として請求した場合、保険会社は、裁判での解決を視野に入れるようになり、判決で認定される慰謝料額を見越して、ある程度の慰謝料の増額を了解することが多いのです。

 

 しかし、裁判を提起すれば、必ず慰謝料が増える、これは誤りです。

訴訟提起のリスク

 裁判所が拠りどころとする慰謝料額算定基準(赤い本記載の基準など)と加害者側(ここでは保険会社をいいます。)が拠りどころとする慰謝料額算定基準は異なります。
 裁判所がよりどころとする基準によって算定した方が保険会社がよりどころとする基準によって算定するよりも高額な金額になります。

 

 裁判所が認定する通院相当期間と被害者の実際の通院期間とが合致しているのならば、判決による認容額は保険会社の提示金額を上回ります。
 そういう意味では、裁判所が認定する慰謝料額>保険会社の提示する傷害慰謝料額、という構図は間違っていません。

 

 しかし、裁判所が実際の通院期間を通院相当期間であると認定するとは限りません。
すなわち、通院期間は実際の通院期間よりも短いものであったと認定する場合があるのです。
 そして、通院相当期間が実際の通院期間よりも短いものであると認定された場合、裁判所が認定する傷害慰謝料金額が保険会社の提示金額を下回ることもありえるのです。

 

 

治療費さえも減額される可能性がある

 通院相当期間以後の治療費については、原則として加害者に賠償義務はありません。

 

 訴訟提起前に加害者側から実際の通院期間に発生した治療費の全額が支払われていた、けれど、裁判所の認定する治療相当期間が実際の通院期間よりも短いものであった場合、その場合、加害者側は本来支払う必要のない治療費を払ってしまったという形になります。
 この「本来支払う必要のない治療費」については、被害者が加害者側に対し返還しなければなりません
 ただし、実際は、認定される傷害慰謝料額から「本来払う必要のない治療費」分を差し引いたその残額を被害者に支払うという処理になります。 

 

 以上のように、訴訟提起をした場合、裁判所が認定する傷害慰謝料額が加害者側の提示金額を常に上回るわけではなく、下回る場合もあり得ます。
 それどころか、傷害慰謝料から既に支払いを受けた治療費の一部が差し引かれてしまうこともあります。

 

 したがって、加害者側が納得のできない傷害慰謝料額しか提示してこないからといって、安易に訴訟提起をするべきではありません。
 訟提起のリスクとメリットをよく吟味して、訴訟提起するか判断するべきです。

弁護士窪川亮輔

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