加害者が無保険・無資力である場合のリスク回避手段をご説明します。

事故の相手方が無保険である場合のリスクを回避する方法

相手方無保険のリスク

 加害者が自賠責保険や任意保険に加入していれば、被害者が被った損害のうち加害者の過失割合分の支払いを受けることができます。

 

 しかし、加害者が自賠責保険や任意保険に加入していなければ、被害者は自身が被った損害について賠償を受けることができない高度のリスクが生じることになります。

 

 もっとも、加害者が無保険である場合の上記リスクをカバーしてくれる諸制度がいくつか存在します。
 本稿ではその諸制度についてご紹介します。

 

 

 

 

人身傷害保険について

人身傷害保険とは

 自動車事故によって、記名被保険者、その親族(*1)や被保険自動車に搭乗中の人物が死傷した場合に、これら人物が被った人的損害額のうち一定の金額が保険金として支払われる保険です(*2)。
 *1親族の範囲は保険会社により異なります。
 *2保険金額は保険会社により異なります。

人身傷害保険の特徴

@被害者救済の保険である
 自賠責保険や対人・対物賠償保険は、保険会社が加害者に代わって被害者に損害賠償金を支払う保険です。
 対人・対物保険は、あくまで他人に対して賠償してもらう保険ですから、自分に損害が発生しても、その損害を自分が加入する対人・対物賠償保険からは支払ってもらうことはできません。

 

 一方、人身傷害保険は、被害者が、将来のリスクに備えて、自分を守るために加入する保険です。
 相手方が無保険だったとしても、自分で人身傷害保険に加入していれば、治療費や慰謝料などは人身傷害保険から支払ってもらえます。

 

A過失割合は影響がない
 人身傷害保険の場合、受け取ることのできる保険金額は自らの過失割合の影響を受けません。
 被害者の過失割合が0%でも、30%でも、受け取ることのできる保険金額は保険会社の基準に基づいて算定した金額です。

 

 相手方が保険に加入している場合でも、被害者の過失割合の程度が大きい場合には、人身傷害保険を受け取るメリットがあります。

 

 例えば、ある人物が事故により100万円の損害を被ったとして、人身傷害保険により受け取ることのできる金額が70万円である、とします。
 その人物の過失割合が0であれば、その人物は100万円の損害賠償金を加害者より受け取ることができるので、人身傷害保険が手に入ることはありません。

 

 一方、その人物の過失割合が50%であれば、加害者から50万円しか賠償してもらえず、損害金100万円のうち50万円は自己負担となってしまいます。
 しかし、その場合、人身傷害保険より70万円から50万円を差し引いた20万円を受け取ることができます。

 

政府保障事業について

政府保障事業とは

 ひき逃げ事故や無保険者による事故により損害を被った被害者が損害を回復できない場合に、最終的な救済措置として、法定限度額の範囲内で、政府(国土交通省)がその損害をてん補する制度のことを言います。
 根拠法は自動車損害賠償保障法です。

補償される金額

 自賠責保険金と同額です。

請求要件

@交通事故により生命もしくは身体を侵害されたこと
A事故の後加害者が逃走したことにより加害者の素性が不明であること
   もしくは
 加害者の素性を把握している場合でも、その加害者が自賠責保険に加入していないこと 
B請求者について一定以上の過失が存在しないこと

請求方法

 自賠責保険取扱い損害保険会社に対して必要書類を提出します。
 自賠責保険を取り扱う損害保険会社であればどこでも受け付けてくれます。

留意点

@健康保険の利用が可能な場合、治療費の3割分のみ保障される
A労災保険が適用され場合、治療費は原則支払い対象外となり、また事故日から4日以降に発生した休業損害金の6割相当分は補償対象外となる。
B時効がある
 傷病にかかる損害について 事故日から3年(但し、平成22年3月31日以前に発生した事故の場合は2年)
 後遺障害にかかる損害について 症状固定日から3年(但し、平成22年3月31日以前に発生した事故の場合は2年)
 死亡にかかる損害について 死亡日から3年(但し、平成22年3月31日以前に発生した事故の場合は2年)
C仮払い制度がない
 将来に備えて賠償金を受け取ることはできず、請求の時点において実際に発生した損害分しか請求ができない。
D自賠責保険に準じて過失相殺減額される
E請求してから補償金が支給されるまでに長期の時間を要する
 国土交通省によれば、申請から給付金の支払いを受けるまでの期間は、ひき逃げ事故の場合は平均3ヶ月、無保険事故の場合は平均7ヶ月の期間がかかっているとのことです。

弁護士窪川亮輔

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