通院日数の少なさは慰謝料を低額なものと推し量る一つの事情である
傷害慰謝料とは、傷害を罹患させられたことによる精神的苦痛に対する損害賠償金です。
精神的苦痛の大小により傷害慰謝料額の多寡は決定されます。
もっとも、精神的苦痛そのものは目に見えないため、精神的苦痛の大小を直接測定することはできません。
怪我の部位、態様、通院相当期間、通院日数等の間接的な事情から推し量る(推測する)しかありません。
通院日数は、精神的苦痛の程度を推し量るための一つの事情なのです。
怪我がひどい状態であればあるほど、怪我を負った方の精神的苦痛は大きいはずです。
同時に、怪我がひどい状態であればあるほど、怪我を負った方は怪我を治してもらうべく病院に多く通う傾向にあります。
逆に、怪我の状態が軽症であるほど、怪我を負った方の精神的苦痛は小さいはずです。
同時に、怪我の状態が軽症であればあるほど、怪我を負った方は病院にあまり通わない傾向にあります。
それゆえに、裁判所は、通院日数が多い場合には、被った精神的苦痛は大きいだろうと推測して、慰謝料額を高額にする傾向にあるのですが、逆に通院日数が少ない場合には、被った精神的苦痛は小さいのだろうと推測して、慰謝料額を低額にする傾向にあるのです。
骨折による精神的苦痛は通院日数では推測できない
ただし、怪我は重傷だけれども、頻繁に通院する必要はないという傷病はあります。
典型例は骨折です。
骨折に対する一般的な治療方法は、患部を固定したうえで骨癒合を待つという保存療法です。
患部を適切に固定した後は骨癒合まで患部を安静な状態に保つのが重要であり、多くの通院は必要ありません。
いくら毎日通院したとしても、骨折が早く治るということはありません。
多くの通院を必要としないのであれば、通院の日数をもって精神的苦痛の大小を推し量ることなどできません。
それにもかかわらず、骨折患者について、通院日数が少ないという事情をもって、傷害慰謝料を少額なものとするのは不当です。
骨折した場合の慰謝料額は通院期間に基づいて算定するべきである
骨折に関しては、その重症度は通院日数では推し量ることができません。
それゆえ、骨折による慰謝料金額は、通院日数の多寡にかかわらず、通院期間をもって算定していくべきです。
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